Lucid Fall、実験で音楽を具現化した「Moment In Love」…「木が僕に“楽譜”を描いてくれた」
2020年12月18日

今年8月に音楽レーベル「Antenna」のYouTubeチャンネル「Antenna LAB」に少し特別な音楽が登場した。シンガーソングライターLucid Fallの新曲「Moment In Love」だ。
美しく輝く音がまるで息吹のようにキラキラと連なり、13分間、神秘的な音楽の風景を繰り広げる。音のパターンはいかなる人為的秩序にも縛られていないように見えるが、なぜか心が平和になる。済州(チェジュ)に帰農し生活しているLucid Fallが音楽で表現したジンギュル(陳橘)というみかんの木の音だ。
目に見えない木の音をどのように音楽で描き出したのだろうか。最近、インタビューに応じたLucid Fallは「“実験”が“音楽”で具現化できるか半信半疑だったが、期待よりはるかに良い結果が出た」と述べた。
木にセンサーを取り付けて電気信号を受け、モジュラーシンセサイザーなどを通じて音楽の音に変換する過程を経た。ここにLucid Fallが即興演奏で加えたサウンドが調和された。
彼は「木は僕に“楽譜”を描いてくれたようなものだ」とし、「微細な生体電圧で描かれた楽譜をモジュラーシンセサイザーがMIDI楽譜に変える通訳をして、僕が指定した音色の楽器で木の楽譜が演奏されることになる」と説明した。
耳を傾けてみると、ジンギュルは似たような演奏をしたことがただの一度もなかった。また微細な刺激にも即時に大きく反応したという。例えば「カーテンを開けるともっと明るく注がれる日差しだとか、指先で木をポンと触れるとか」というように。
彼の説明とともに音楽を聴くと人間と同じで、木にとっても人生は数多くの刺激に感応し、瞬間ごと微妙に変化するドラマなのではないかと思う。
Lucid Fallは「リアルタイムでそのような木の反応を確認できることが僕には非常に驚きだった。限りなく静的で寛容に見える木も実は、数多くの刺激に敏感に反応しながら生きていく生命体だという、あまりにも当たり前の道理を音で確認した経験だった。“我々は異なるが、そんなに違うわけではない”と思った」と述べた。
「Moment In Love」は彼が今月披露したアンビエント(環境)演奏アルバム『Dancing With Water』に収録された。今回のアルバムは限定版LPでのみ販売され、音源サイトには公開されなかった。
昨年12月にリリースした9thアルバム『Nowana』をはじめとしたLucid Fallの以前のアルバムとは異なる方式だ。また別の収録曲「Dancing With Water I」も「Antenna」のミュージシャンたちによる自由な音楽共有空間である「Antenna LAB」で先行公開した。
彼は「シンガーソングライターとしての正規アルバムと、その他の別の実験、試み、別のペルソナの非正規アルバムを区分してリリースしたほうがいいと思っていた」とし、「そんな話もかねて(レーベルの代表理事である)ユ・ヒヨル兄さんに会ったところ、兄さんが『Antenna LAB』という新しいプラットフォームを構想していた」と伝えた。
「Dancing With Water I」に続く「Dancing with Water II」は、瞬間ごとに異なる模様を描く水の心象を音楽に置き換えたようだ。Lucid Fallは「水が描く形のように決して同じではない、“繰り返しのない繰り返し”が積み重なった音楽」を作りたかったと語った。自然に存在する数多くの繰り返しがそうであるように。
そして「昨年末アルバムを出した後、今年の初めから体の調子が悪かった。他にリハビリの方法がないので、家の近所のプールに行き水の中を歩きながら体を管理した。春だったが、プールの窓から差し込む日差しにきらめく水の光がとてもきれいだった。そんな水の色や自分の体の周りに広がる水の形を見ながら、理由は分からなかったが、『こんな音楽を作りたい』という思いがふと湧いてきた」と述べた。
彼の言葉のように今回のアルバムは“自らを治癒しようとした瞬間に作られた楽曲”でもある。彼は「振り返ってみると、今までは他の人たちにどう聞こえるか、どんな音楽を聞かせるかを考えながら歌ってきた気がする」とし、「自分のためのアルバムや音楽を作ったことはなかったと思う」と述べた。
音楽を再定義することは前回のアルバム『Nowana』から続く試みだ。『Nowana』は10年来の愛犬ボヒョンを音楽的パートナーとして制作したアルバムだ。
指の負傷でかなり長い間ギターを弾けなかったLucid Fallは、演奏の代わりに機械を介した音の創造を探求することになり、これはボヒョンが出す音を音楽として再創造する試みにつながった。
彼は「音楽とは何かを絶えず数十年間考えながら生きてきたが、自分でも知らず知らずのうちに狭い“枠”の中で音楽を見つめて定義しながら生きてきたようなものだ。そんな中、指をケガして、半年以上ギターを弾けなかったあの瞬間の事故が、ある意味僕の長年の枠から自分自身を開放してくれたモーメントになったのではないかと思う」と述べた。
Lucid Fallが語る物語に沿って想像力を広げていくと、4トラック目の「Fledglings」でより考えることが増える。済州島の果樹園でレコーディングしたフォークレーン(重機)の音で始まる楽曲には、鳥たちの鳴き声がかすかながらも粘り強く紛れ込む。
開発の嵐で「休日もなく地面を掘って石を割り、木を切って家を建てる」風景の中でも小さな生命は隠れ家を求めて生活を続ける。彼はアルバムのライナーノーツにこう記した。
「無力な私は、このような轟音を録音して音楽として作り上げる作業をしていくつもりだ。それが私にできる唯一の抵抗であり、治癒の方法のようだ」
