ソン・ガンホ&イ・ビョンホン主演の映画『非常宣言』、災難に直面した人間たちの複雑な本性を描く
2022年07月26日

ベテラン刑事の“インホ”(ソン・ガンホ)が勤務する警察署に、“テロの予告映像が流れた”という通報が入る。同僚たちは、“今日、飛行機をテロする”という脅迫映像を「いたずら」だと言って無視するが、チーム長のインホは、犯人の所在を探しに乗り出す。妻がハワイ行きの飛行機に乗ったためだ。インホは犯人の家で生化学テロを準備した痕跡を見つける。
空港では、娘のアトピー治療のためにハワイへ行こうと飛行機を待っている“ジェヒョク”(イ・ビョンホン)に不審な男が接近する。“ジンソク”(イム・シワン)は空港で、できるだけ遠くに飛ぶ乗客が多い航空便を物色していた。映画は、ジンソクが脅迫犯であり、テロの容疑者という事実をあからさまに知らせながら始まる。犯人が誰なのかを推理させるのではなく、テロの具体的な様相または、人物たちの対処で話を進めていくからだ。
離陸して間もなく、ジェヒョクと機内事務長の“ヒジン”(キム・ソジン)らは、ジンソクを不審に思い始める。ジンソクが、自分の身分を証明する物を提示するも、機内では乗客が死亡。ジンソクの正体についての疑念はさらに深まる。ジンソクの身分証明は、むしろ彼がテロの容疑者であるということを強力に裏付ける。
機内と地上では、事件解決へ向けての努力がなされる。テロ犯を制圧し、航空機をできるだけ早く着陸させるのは機内の人物たちの役割。空前絶後のテロの対処や飛行空域の調整は、地上にいるインホや国土部長官の“スクヒ”(チョン・ドヨン)、大統領府の危機管理センター室長の“テス”(パク・ヘジュン)らの任務だ。
災難映画の魅力は、問題を解決する過程で人間の本性を赤裸々に見せるということにある。利己心が状況を悪化させる一方、最悪の状況でとられる英雄的行動、または集団行動によって九死に一生を得る結末は、災難映画のお決まりパターンでもある。
映画は、テロ被害の刺激的描写を最大限抑え、登場人物が事件に対処する様子を映し出すことに注力している。クリント・イーストウッドが演出した『ハドソン川の奇跡』(2016)に登場した機長“サリー”(トム・ハンクス)が、徹底した正義感と機転で航空機と乗客たちを救い出したように、『非常宣言』の副機長“ヒョンス”(キム・ナムギル)やチーフパーサーの“ヒジン”など、機内の人物たちもやはり、落ち着いて解決策を見出していく。
反面、インホには、事件を解決しなければならないという職業的な責任感より、家族の命を救おうとする焦りが目立つ。閉ざされた空間で死を目の当たりにした機内の乗客たちの身勝手さは、ゾンビ映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2016)を連想させる。予想もしていなかった人物が英雄となり、事件を解決していく展開も、災難映画の公式に従っている。
人類愛的な犠牲の方向に、突然舵が切られる乗客たちの感情の変化は、やや作為的に感じられる。ジンソクの動機は明確だが、なぜよりによって航空機なのかは十分に説明がなされない。テロの対象になった機種は、空気浄化システムが整っていない旧型のボーイング777だが、彼が機種を選んだわけではない。
映画は、乱気流を用いて徐々に近づいてくる死の恐怖をより一層、リアルに伝える。機内シーンは、実際の飛行機を使って製作したセットを360度回転させ、ハンドヘルドカメラで撮影した。航空機が、ほぼ垂直に傾いて墜落する瞬間は、スリル満点だ。
このように、映画がありふれた災難映画に留まらない理由は、事件を見つめる地上の人間群像を照らしているからだ。 韓国社会がここ数年間、様々な災害の局面で見せてきた極端な利己主義や嫌悪、差別の風景が、リアルに描写されている。 一部の観客にとっては、架空のウイルスや、他の映画で見たような航空機事故よりも、このような集団情緒がより恐ろしく感じるようだ。
『非常宣言』は韓国で8月3日に公開される。上演時間は140分で、PG12歳指定だ。
