カンヌ招待作の映画『ファラン』、暴力のしがらみから逃れようとする少年を描いた物語

2023年05月25日

パタ、パタ、パタ。 真夜中にドアの外から足音が聞こえる。眠りにつこうとしていた少年“ヨンギュ”(ホン・サビン)の心臓が音を立てる。「どうか父さんではありませんように。父さんなら、今日だけは僕の存在を忘れてくれ」と、ヨンギュはギュッと目をつむり祈る。

ヨンギュの人生は、映画の英題のように絶望(Hopeless)そのものだ。継父は酒を飲むとヨンギュと母を無慈悲に殴る。ヨンギュは、同じ町に住む同級生からもサンドバッグ扱いされている。 ひどい貧困は、ヨンギュにほんの小さな部屋すら与えてくれない。カーテンをパーテーション代わりにして、義妹の“ハヤン”(キム・ヒョンソ/BIBI)と一つの部屋を使う。早くお金をためて「皆が同じ水準で暮らすという」オランダ(漢字表記:和欄/ファラン)に行くのが彼の唯一の夢だ。

24日(現地時間)、第76回カンヌ国際映画祭のドビュッシー劇場でワールドプレミアとして上映された『ファラン(原題:화란)』は、しぶとくつきまとう暴力のしがらみから抜け出そうとする少年の物語だ。キム・チャンフン監督初の長編で、カンヌ映画祭が新しい傾向の作品を紹介する「注目すべき視線」部門に招待された。

劇中、ヨンギュと同じくらい重要な人物が、彼と似た人生を歩んできた“チゴン”(ソン・ジュンギ)だ。暴力団の中間ボスであるチゴンは、偶然知り合ったヨンギュが、自分の幼い頃の姿と似ているため、放っておけない。お金を稼がせてほしいというヨンギュを最初は突き放すが、彼の顔にある暴行の痕を見て、心変わりする。

ヨンギュは、チゴンの下で仕事を学ぶ。借金の返済が遅れている人を殴って無理やりお金を回収したり、組織の邪魔になる人を“処理”したりするのが、彼の業務だ。もうこりごりだと思っていた暴力を避け、逃げてきた場所だが、いつの間にかヨンギュは暴力の加害者へと立場が逆転していく。

チゴンは、「俺たちがしなければならないこと」だと言って、暴力を正当化し、ヨンギュを諭す。あんなに恐れていた継父に似ていく自分を見たヨンギュは、チゴンのそばからも離れたい。彼は、継父と何ら変わらぬチゴンを捨て、夢に描いた“ファラン(和欄/オランダ)”に行くことができるのだろうか。 

新人監督作品らしく、『ファラン』は、よどみなく結末に向かって走っていく。近年、稀に見る濃いノワールであるため、こんなジャンルを求めていた観客にとっては、うれしい作品となるだろう。 キム・チャンフン監督は、試写会の前日となった23日のインタビューで、「犯罪自体よりは、犯罪が人物の世界に及ぼす影響を扱いたかった」とし「ある少年が、本来の生活より、さらに冷酷な世界で生きるようになりながら、自分の意思とは違う人生を強要され、危険な成長をしていく物語」だと紹介した。

この作品では、俳優陣の好演が光る。これまで明るく爽やかな役を主に担ってきたソン・ジュンギは、無慈悲ながらも憐れみの感情を抱くチゴン役で演技変身に成功した。新人俳優のホン・サビンもやはり、廃水の中を泳ぎ、花を渇望するようなヨンギュというキャラクターを見事に演じた。キム・ヒョンソは、これまで隠されていた演技力を今回の作品で見せる。

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