初恋の奇跡…恋愛細胞を覚醒させる『ユ・ヨルの音楽アルバム』
2019年08月22日

夏の終わりと秋の始まり、郷愁に駆られる感性メロ映画一本が劇場を訪れる。今月28日公開の映画『ユ・ヨルの音楽アルバム』は、久しぶりに劇場に登場する韓国産のメロ映画だ。10年以上、出会いと別れを繰り返しながら縁をつないできた二人の男女のエピソードを描く。スマートフォンとSNSでいつでも、どこでも、お互いの近況を聞き、動向を確認できる近年によく見られるインスタント式の恋愛ストーリーではない。消息が分からないからこそより切なく、だから偶然の出会いが奇跡のように感じられる、テンポは遅いが、まっすぐな愛の話だ。
エピソードの主人公は、1975年生まれの“ミス”(キム・ゴウン)と“ヒョヌ”(チョン・ヘイン)。亡くなった母が残したパン屋を守っていた“ミス”は、パン屋を訪ねてきた“ヒョヌ”と初めて出会う。1994年10月、ラジオで「ユ・ヨルの音楽アルバム」が初放送された日だ。
人知れない痛みを持った“ヒョヌ”は高校も辞め、パン屋で働き、“ミス”と“ミス”の叔母は、彼と家族のように接する。幸せな日々も束の間、ある日“ヒョヌ”はパン屋を出たまま、戻って来ない。数年後、パン屋の前で思いがけず出会った“ミス”と“ヒョヌ”は、メールアドレスだけを交換したまま別れ、またいつになるか分からない再会の日を待つ。
映画は、ぎこちないが、初々しかった初恋から現実の恋愛まで、様々な愛の姿を思い出のアルバムのように一つずつ広げて見せる。平凡ながらも、特別なエピソードが、様々な感情を呼び起こす。もどかしく、切ないながらも愛おしくて感動的だ。
不安な青春を照らした自画像であると同時に、成長の話でもある。工場の機械騒音を聞きながら社報を作っていた20代の“ミス”は、夢から一層離れた自分の姿を見て悩み、“ヒョヌ”もやはり、現実の高い壁を前に度々挫折する。IMF通貨危機の中、就職の難しさを経験した90年代の学生はもちろん、最近の若者たちも十分に共感できるはずだ。だからといって浮かない話だけを描いているわけではない。一日一日を懸命に生きていく彼らを温かい視線で励ます。
人間関係と愛に関する成熟した視線も引き立つ。過去の出来事を罰のように背負って生きる“ヒョヌ”を通して人を愛そうとするなら、まず自分自身を愛さなければならないと言う。そして世界で私を信じてくれる唯一の人、あなたに出会ったのは奇跡だと言う。
90年代半ば、2000年代初めの感性を色濃く漂わせ、郷愁に駆られる。思い出のパソコン通信、人工衛星からガラケー、昔のドーナツなど、小道具一つまで細心の注意を払っていることは歴然としている。映画音楽も欠かせない。シン・スンフン、イ・ソラ、 Fin.K.L、 Lucid Fall、Cold playなど、その時代の名曲たちが耳に絡む。
10代から30代までを演じたチョン・ヘイン、キム・ゴウンは、実際の恋人のように自然で吸引力ある演技を披露する。二人を見ただけでも、眠っていた恋愛細胞が覚めてしまう。劇場を後にする時、気になる。40代半ばになった“ヒョヌ”と“ミス”は今どのように生きているだろうか。『ハッピーエンド』、『親知らず』、『ウンギョ 青い蜜』、『沈黙、愛』など、さまざまな愛のストーリーを繊細なタッチで演出してきたチョン・ジウ監督の新作である。
