ホン・サンス監督映画『逃げた女』、最後の瞬間で反芻する女性の時間
2020年09月11日

自主映画を多数制作するホン・サンス監督の映画は、自分の色、あるいは自己複製という正反対の評価を行き来する。
24作目の長編であり、恋人で女優のキム・ミニとともに撮った7作目の作品で、「第70回ベルリン国際映画祭」で銀熊賞(監督賞)を受賞した、『逃げた女(原題:도망친 여자)』は、これまでの作品と依然として似ているが、少し変化している。
主人公のカムヒ(キム・ミニ)は夫が出張に行った間にヨンスン(ソ・ヨンファ)とスヨン(ソン・ソンミ)の家を相次いで訪問する。1人で足を運んだ小さな映画館では、そこで働くウジン(キム・セビョク)と偶然出会う。
離婚後、人里離れた村に家を買ったヨンスンは菜園を作り、野良猫にエサをあげながら住んでいて、芸術家がたくさん住んでいる村に新しく引っ越してきたスヨンは、その芸術家たちが集まるという居酒屋で何だかんだと縁を結んでいるところだ。ウジンは久しぶりに会ったカムヒに過去の出来事を謝罪し、有名になった夫の陰口を叩く。
ほとんどすべてのシーンに登場する主人公より、3人の友人の物語がオムニバス映画のように続く。カムヒは友人たちが作ってくれた料理を食べて感嘆し、友人とその周りの話を見聞きしながら反応する。
自分については夫と結婚した後、5年間一度も離れて過ごしたことがなく、夫は「愛する人は絶対に一緒にいなければならない」と言った、という話だけを3人に繰り返す。
女ともだちの会話は30代から40代までの女性たちが気楽な友人とよく交わす生活の話だ。向かい合ったテーブルには外国の観客たちに、“秘密を打ち明けさせる魔法の緑色の瓶”と認識された焼酎の代わりに、マッコリや白ワイン1本が置いてあるだけだ。
ホン・サンスの作品で欠かせなかった、見栄っ張りで稚拙で粘着質な男たちが焼酎の瓶を前に、荒唐無稽な会話をしたり、若い女性に「キレイだ」と露骨にしつこく話しかけるシーンもない。
平和な女性たちの時間を一度ずつ破る男たちは相変わらず厚かましく幼稚だが、後ろ姿で少しだけ登場する。
野良猫にエサを与えるヨンスンに「泥棒猫にご飯をあげないでくれないか」と要求する近所の男性や、居酒屋で出会い一度寝たスヨンに、度々電話して押しかけてきて、「なぜ恥をかかせるのか」とぶつぶつ文句を言う若い詩人の男性の顔は映さない。女性たちは穏やかな言葉で言い聞かせたり、声を荒げて男性たちを追い払う。
約束していなかったウジンとの偶然の出会いは唯一ぎこちない瞬間で、ウジンと別れた後の最後の短い瞬間が緊張感をもたらす。
ウジンの謝罪はカムヒと縁があった現在のウジンの夫チョン先生(クァン・ヘヒョ)のせいのようで、終始単純で無邪気だったカムヒは他のイベントで映画館に来ていたチョン先生に遭遇して顔がこわばる。
作品で“逃げた”と言及されるのは、ヨンスンの隣人の女性だけだが、最後の瞬間1人残ったカムヒの表情から、主人公の時間を反芻し始める。
映画『逃げた女』は、9月17日から韓国で公開され、青少年観覧不可作品だ。
