チョン・ジヨン監督の映画『アンカー』、愛憎の母娘の関係を描いた物語がスリラーに

2022年04月13日

完ぺきに愛することも、だからといって完全に憎むこともできない複雑で微妙な関係。経験したことのない人は簡単に同意しにくいかもしれないが、母娘の関係は、“愛憎”の関係だとよく言われる。
母は、娘に愛情を注いでいるとはいえ、若さを奪った娘を憎んだりもする。また、だんだん自分と似ていく娘を見ながら、果たせなかった自分の夢を娘に叶えてほしいと願う。娘は、そんな母を哀れみながらも、絶えず自分と一体化する姿にプレッシャーと憎しみを感じる。
映画『アンカー(原題:앵커)』は、娘のために夢をあきらめた母と、母の犠牲となって、母の夢をかなえることになった娘が、一連の事件を通して目の当たりにした真実を描いた物語だ。母と娘の関係に隠れている愛憎という感情をスリラーで表現し、2人の心の奥深くにあるトラウマがどのように悲劇となっていくかを扱った。
『FLU 運命の36時間』、『戦火の中へ』、『もう私は勇敢になる(原題:이제 난 용감해질 거야)』などを手掛けたチョン・ジヨン監督の初の長編映画で、脚本と演出をいずれも務めた。
スターアンカーのセラ(チョン・ウヒ)は、一見すると全てを兼ね備えたキャリアウーマンのようだ。有名なファンドマネージャーの夫を持ち、若くしてメインニュース番組「9時のニュース」のキャスターを務め、漢江(ハンガン)が見える広いマンションに住む。
しかし中身は、劣等感と不安に満ちている。記者ではなくアナウンサー出身という点が最大のコンプレックスで、同僚が彼女のことを「取材を一度もしたことがない」と言うのを耳にしたり、後輩記者が自分のポストを欲しがるのを目の当たりにしたりし、焦りがどんどん増していく。
セラの痛いところを、最もチクチクと刺す人は、他ならぬ母のソジョン(イ・ヘヨン)だ。「いつまで他人が書いた文章をオウムのように読み上げるつもりなのか」、「そうしているうちにのし上がってくる後輩にポストを奪われる」と脅す。セラが、 “殺されそう、来てほしい”という謎の電話を受けると、「これは本当のアンカーになる機会だ」、「直接取材に行け」とあおる姿までもみせる。
セラは結局、警察に通報せず、自ら情報提供者の家を訪ね、そこで浴槽に沈んで死んでいる女の子とタンスで首をつって死んでいた20代の女性“ミソ”を発見する。警察の調査結果、大学に通っていたミソが娘を殺害した後、自ら命を絶ったという結論が出る。
しかしセラは、謎の電話をかけてきた女性の主治医だった精神科医のインホ(シン・ハギュン)を不審に思う。ミソの催眠治療をしてきた彼が、ミソを死に至らせたと推測する。ずっと自分の周りをうろつき、家族にも接近するのを見て、疑いは確信となる。
その頃からセラは、タンスで首をつっていたミソが現れ、ニュースを進行している自分の首を絞めてくるという幻なのか悪夢なのか分からない奇異な現象に悩まされる。そのせいでセラは、アンカーの座を明け渡す危機に直面する。
母ソジョンのプレッシャーはますます激しくなり、娘のミスを叱るのはもちろん、この全てが娘婿のせいだと離婚を勧める。加えて、子どもは絶対に持ってはいけないという話まで持ち出す。
これまで、よく目にしてきたキャラクターや関係図であるが、『アンカー』はミステリーとスリラーを重ねた、いっそう新鮮なジャンルだ。特に、母から受けた過去の傷と専門職を持つ女性として感じる圧迫感を併せ持つセラが、奇妙な出来事を経験することで緊張感を高める。
母のソジョンは後半部になっても存在自体がミステリーだ。実存する人なのか、それともセラが作り出した幻なのか、最後まで疑いの紐を離せないようにさせる。インホもやはり、存在感を発揮する。善役なのか悪役なのか分からない彼は、ややもすれば薄っぺらくなりかねないストーリーに“催眠”という素材を持ってきて奇妙な雰囲気を作り出す。
ただ、隠された真実を説明するため、クライマックスでサスペンス感が薄れ、ひとつひとつ紐解く方法で親切に話が展開される点は残念だった。
しかし娘なら、母なら、あるいは多くの事を成し遂げた若い女性なら、一度は経験したことのある心理を繊細に見せた点が高く評価できる。
チョン監督は最近、マスコミ試写会を兼ねた記者懇談会で「私が娘として経験した母との愛憎関係、近いのに遠かった時期を思い出して映画に反映した」とし、「また、成功した女性の中の恐怖やトラウマがドラマティックなストーリーを作れるのではないかと思った」と述べた。
さらに「子どもを持つのは怖いが、子どもを見るとかわいいと思う、相反する感情を抱いてきた」とし、「なぜ子どもは恐怖感を与えるのかを暴いて質問を投げた」と説明した。 『アンカー』は、20日に韓国で公開される。上映時間は111分で、R15歳指定だ。

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