人生とはこんなものなの?…14歳女子中学生が羽ばたく映画『ハチドリ』
2019年08月15日

お使いに行ってきた少女が家の呼び鈴を押すが、中には人の気配がない。少女は不安になり、呼び鈴をがむしゃらに押し続けるが、とうとうドアは開かなかったため、「ママ」と泣き叫ぶ。少女は我に返ってアパートの表札を見上げる。しまった、違う家を訪ねてしまった。1階下に降りてきて、呼び鈴を押すと、ようやく母親が姿を現す。
映画『ハチドリ(原題:벌새)』(キム・ボラ監督)の最初のシーンだ。14歳の少女が感じる世の中に対する漠然とした不安、突然の関係断絶から来る恐怖感、人生を生きながら誰もが経験する試行錯誤などを圧縮して見せてくれる。
『ハチドリ』は、1994年を背景に、中学2年生の“ウンヒ”(パク・ジフ)の成長物語を描く。
顕微鏡で見るようにじっくり覗き見る“ウンヒ”の日常はまるで小宇宙のように広く深い。多くの星が輝き、砕ける中で“ウンヒ”は次第に自分だけの輝きを探しに行く。
“ウンヒ”は両親や友達に愛されたい平凡な女子中学生だ。勉強はできなくても漫画を上手に描く。家や学校ではおとなしいが、時々はめをはずしたりもする「劣等生」だ。
“ウンヒ”の家は江南で餅屋を営む中流階級の家族だ。息子だけを見つめる家父長的な父、餅屋に家事までこなし、いつも疲れている母、勉強はできるが、“ウンヒ”をぶつ乱暴な兄、夜になるたびこっそり彼氏を家に連れて来る問題児高校生の姉まで。“ウンヒ”は自分の家族を“きな粉”と呼ぶ。“ウンヒ”のそばには親友も彼氏もいる。
映画は、“ウンヒ”が、さまざまな関係の中で、愛されるために絶え間なく動く姿を見せてくれる。1秒に90回羽ばたきをするハチドリのように。
しかし、その関係は堅固ではない。断絶と和解を繰り返す。
親友は決定的な瞬間で“ウンヒ”を裏切り、彼氏は浮気をする。
そうした中、いつそんなことをしたと言うように元に戻ってくる。ある日突然現れ、好きだと告白してきた後輩は新学期になると、急に背を向ける。
“ウンヒ”は、人の気まぐれを全く理解できない。
関係崩壊を経験するたびに世界が崩れたような喪失感に身震いする。
出会いと別れ、好きや嫌いを繰り返す“ウンヒ”や友達を「中二病」という言葉で説明するにはとても足りない。
「分かりそうで本当に分からない、悪いことに直面すれば嬉しいことが共存する」(劇中の“ヨンジ”の手紙)が人生であるかのように、映画は喜怒哀楽に満ちた少女の日常が、実際は普遍的な人生の縮図だと語る。
映画を見ると、「私もああだった」あるいは「私だったらああしていただろう」という共感が自ずと湧く。
洞察のある視線と細かな演出が加わって説得力を高める。
この作品が、ベルリン国際映画祭のジェネレーション14plusでグランプリ、第45回シアトル国際映画祭の審査委員大賞、第36回エルサレム国際映画祭の優秀長編デビュー作など多くの国際映画祭で25冠を達成したのも、そのような普遍性と共感力のおかげだ。
映画は、「良い大人」についても問う。
劇中、悪い大人はいないが、“ウンヒ”に人格的に接する良い大人は漢文担当の先生“ヨンジ”(キム・セビョク)一人だけだ。父、母でさえ“ウンヒ”の切ない羽ばたきを見ない。「お兄ちゃんが殴った」と訴えても、父は「お前たち二人、けんかするな」と言う。
何があったかを聞いたり、暴力は絶対にダメだと厳しく叱ってくれたりするような事はない。
そんな大人の無関心は、暴力よりひどい心の傷を残す。
子供たちは問う。
「どうしてみんな私たちに謝らないの?」
映画は1994年の抑圧的な社会の空気がそのまま収められており、寂しさと笑いを同時にかき立てる。
教室の風景一つとってもそうだ。担任教師は「劣等生」を探し出すと言って、友達の名前を書いて提出させる。「カラオケの代わりにソウル大」というスローガンを叫ぶように言う。勉強ができない“ウンヒ”に向かって、同じクラスの友達は、「あの子は、将来うちの家政婦になると思う」と露骨に馬鹿にする。
映画は、個人を越え、社会にも目を向ける。1994年は、北朝鮮の金日成が死亡し、気象観測史上最高の猛暑が全国を見舞い、聖水大橋が崩壊した年だ。
聖水大橋崩壊惨事は後半、自然に登場し、ただでさえとてもミステリアスな“ウンヒ”の人生にまた一つの疑問符を残す。
キム・ボラ監督は最近、試写会後の懇談会で、「聖水大橋の崩壊を通して、私たちが何を見落としていてどこに向かっていくのかについて、主人公“ウンヒ”と話したかった」と述べた。
続いて、「聖水大橋の崩壊は、1988年のソウルオリンピック以降、韓国が西欧社会から認められようとする熱望、先進国になろうと熱望する空気の中で起こった事件で、その物理的な崩壊が“ウンヒ”が人間関係の中で経験する崩壊と相まっていると考えた」と説明した。
映画のテンポは遅いが、些細な笑いが込められており、退屈しない。
子役俳優パク・ジフは138分のランニングタイムをほぼ一人で丸ごと牽引するが、余白がほとんど感じられないほど、多様な魅力をアピールする。8月29日公開だ。
