映画『脱出』のキム・テゴン監督、「イ・ソンギュンさんに妥協はなかった」

2024年07月11日

映画『脱出:PROJECT SILENCE(原題:탈출: 프로젝트 사일런스)』(以下、『脱出』)の公開は、キム・テゴン監督に喜びと切なさという複雑な感情を与える。

この映画は、『グッバイ・シングル』(2016)以来となるキム監督の作品であり、初めて挑戦する大規模な災害映画だ。

彼は、『脱出』が第76回カンヌ国際映画祭のミッドナイトスクリーニング部門に招待されたことで、初めてカンヌのレッドカーペットを踏んだりもした。

しかしファンたち待望の公開日が決まった昨年12月、主演俳優のイ・ソンギュンさんが突然この世を去った。『脱出』は、チュ・チャンミン監督の『幸せの国(原題:행복의 나라)』と共に彼の遺作となった。

「『脱出』をたくさん宣伝し、多くの方に見ていただくようにすることが大切だと感じた。ソンギュンさんもそれを望んでいると思う」

10日、ソウル鍾路(チョンノ)区のカフェで会ったキム監督は、淡々としながらも確信に満ちた声でこのように語った。

彼は、「最初は(広報活動など)、全てのことを慎重に行っていた。ところが最近、舞台挨拶をしに劇場に行った際、観客が歓呼し拍手しているのを見た」、「その時にやっと、あまりにも慎重になりすぎる必要はないと思った」と振り返った。

『脱出』は、空港へとつながる橋の上で孤立した人々が、殺傷用の軍犬に襲撃されながら巻き起こる物語を描いた作品だ。イ・ソンギュンさんは娘を守るために奮闘する安保室行政官の“ジョンウォン”役を担った。

イ・ソンギュンさんはアクション、コメディー、メロ、ホラーなど様々なジャンルの作品に出演したが、災害映画は『脱出』が初めてだった。

普段から親交があったキム監督が、イ・ソンギュンさんに『脱出』を一緒にしようと提案すると、彼はいぶかしい表情で「僕が?」と言ったという。自分はブロックバスターに合わないと思ったのだ。

キム監督は、「ソンギュンさんは幅広い演技ができる俳優だから、こういう映画もこなせると信じた」とし「中心になって作品をリードしていくのは、ものすごいプレッシャーだっただろうが、見事にこなしてくれた」と強調した。

彼が現場で見た“俳優イ・ソンギュン”は、完璧主義者そのものだった。

キム監督はイ・ソンギュンさんについて、「適当にやり過ごそうという思いがまったくないほど、完璧を求める人だ」とし「動線やアクションでも積極的にアイデアを出してくれた」と振り返った。

「撮影に入っても、努力を惜しまない俳優だった。クライマックスのトレーラーシーンを撮る時が特にそうだった。元々はトレーラーが橋に倒れている程度のイメージだったが、緊迫感が足りないように感じて、ギリギリぶら下がっている感じで撮ってみようと現場で提案した。普通の俳優なら、状況が突然変更になるのを嫌がる。しかし、ソンギュンさんは“早くワイヤーを持ってきて。撮ろう”と言ってトレーラーによじ登った」

『脱出』は昨年5月、カンヌ映画祭のワールドプレミアで上映され、正式な公開まで1年2カ月かかった。

キム監督は、カンヌで耳にした評価を基に修正を重ねた。主に指摘された既視感のある要素を取り除くことに集中した。上映時間も96分に短縮され、緊迫感のある物語が展開される。

キム監督は、「公開まで時間があるので、できるだけ完成度を高めようという思いだった」とし、「最近の観客は何を好むのかを調べて、感情が過剰な部分を編集しランニングタイムを減らした」と説明した。

CGで軍犬を具現し、車両100台の追突事故や橋の崩壊などの演出を行ったぶん、『脱出』の制作費は今夏公開の映画の中で最高額となる185億ウォン(約21億円)となった。劇場の売上高だけで見ると約400万人が観覧しないと損益分岐点には到達しない。

最近、『破墓(原題:파묘)』や『犯罪都市4(原題:범죄도시 4)』などが千万映画となったが、ほとんどの作品が観客100万人達成も厳しい状況であるため、キム監督も興行に対するプレッシャーを感じると打ち明けた。

彼は、「もはや映画を何人が見るのか誰にも予想できない」とし「毎日(『脱出』の前売り率を)検索していたら精神が参りそうだ」と笑った。

「サイコロは既に投げられているので、与えられたことを最後までやりきるのが私にできることだと思う。映画自体は最善のバージョンだと思っている。先週金曜日も後半の作業を行った。結果は謙虚に受け入れようと思う。いい作品は、必ず見に来てもらえると信じている」

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